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疼痛管理はチームスポーツ AAHA 2022

Pain Management Is a Team Sport  AAHA 疼痛管理ガイドライン 2022

動物病院に勤務するすべてのスタッフにはそれぞれの役割があります。ケイト・ボートライド V.M.D

私のペットが痛がっていると思いますか?ペットの家族からよくある質問です。痛みのない生活は家族にとって最優先事項ですが、多くの家族はペットが示す微妙な痛みのサインに気づいていません。そのため痛みの予防と管理は、動物病院のチームのメンバーが共有すべき問題です。“痛みの認識と治療はペットのケア、生活の質、そして獣医師の重要な義務の一つである。” ヒッコリー獣医科病院 CVT VTS アリソン ゴットリーブ氏

疼痛管理を優先するチーム作り

疼痛管理計画書を作成し、実行することは動物病院にとって優れた出発点です。この計画には一貫した種特有(犬と猫)の疼痛スケールを使用し、スタッフ全員が参加します。ペットの家族が記入できる痛みの評価スケールも導入します。急性、慢性、外科手術に対する疼痛の治療のためのプロトコールを作成する必要があります。痛みにはさまざまな種類があり、それぞれ異なる評価、介入、クライアント教育が必要であることが認識されています。2022年のAAHAで出版された犬と猫の疼痛管理ガイドラインを参照し、最大限に活用することが重要です。全てのメンバーは痛みの管理の重要性を理解し、患者の痛みを認識する方法、家族と痛みについて話し合うトレーニングを受ける必要があります。病院内のすべてのスタッフが立場に関係なく動物の痛みの概念について主治医と話し合い見逃さないようにする必要があります。“ペットに鎮痛剤を届けるためにはチーム全体が協力する必要がある”ゴットリーブ氏は語る。“また、最も重要なことは痛みを緩和することがペットのケアの焦点であることに全員が同意することである。”

顧客サービス

受付はペットの痛みについて会話を始める上で重要な役割を果たしており、痛みの管理における彼らの役割は動物が病院に入る前から始まっています。電話を担当するチームメンバーとして電話やその他のコミュニケーションの場において、家族が質問や予約の電話をする時に明らかな痛みの兆候と微妙な痛みの兆候の両方に注意を払う必要があります。受付がペットの懸念が痛みに関連した兆候であると認識した場合、獣医師による評価と診察のために来院するようにに家族に勧める必要があります。また術後に家族から何かしらの電話があった場合、電話の内容がペットの痛みに関連する可能性について耳を傾け、家族が術後の処方通りに投薬をおこなっているかを確認し、獣医師に懸念事項を伝えてフォローを依頼する必要があります。※受付は痛みに懸念があり、来院の予約があった場合は獣医師がペットの自宅環境での行動が確認できるように日常生活中のビデオを撮影するように提案することができます。猫は診察中に診察室を歩き回らない事が多いため動画は特に猫の痛みを評価する強力なツールとなります。受付は予約の前に家族に痛みの評価シートを送信したり、病院に到着した際に疼痛評価シートを提供することもできます。これらのツールは痛みや動作に関する懸念を抱えている患者や、高齢のペット、整形外科疾患を患っているペットなど、変形性関節症のリスクが高い動物に対しても利用する必要があります。最後に受付は多くの場合、病院に到着したペットを最初に観察するメンバーです。待合室で時間を過ごしていると犬の痛みについて多くのことを学びます。動物が病院に入る姿や、座っている様子、また横たわった姿勢から立つ姿勢に移る様子によって痛みの証拠が得られます。受付がこれらのサインを察知するための知識を確実に身につけることでチームの初動が大幅に改善されます。診察室や処置室ではペットの行動が変化する可能性があるため、獣医師以外のチームのメンバーは観察結果を獣医師に知らせる事が重要です。

米国における動物看護師は国家資格を持つ高度な教育を受けた専門家であり、多くの場合は獣医師よりもペットや家族との接触が多く、痛みを認識し、痛みについて家族に教育を行うために不可欠な存在と認識されています。彼らは手術後の患者を観察、触診、監視し、入院中の基本的なニーズに対応し、ほとんどの治療を担当します。入院ケアの継続と痛みの状態の変化を迅速に検出するために毎回、痛みの評価ツール(ペインスコア)を使用しています。

“これからの動物病院は動物看護師を訓練し、ペットの快適さの変化に基づいて治療決定を自律的に行えるようにする必要がある。” ジョンソン氏。

“また、獣医師が作成する治療計画には患者の快適さが変化した場合は、獣医師とコミュニケーションを取り、痛みの治療計画について協力し、追加の鎮痛剤や抗不安剤が必要になった場合は常にフォローアップできるようにすべきである。” ゴットリーブ氏。

疼痛管理におけるもう一つの強力なツールは、痛みを予想して先制的に治療する機能です。動物看護師は疼痛の可能性について、獣医師と話し合い鎮痛剤を処方する必要があるかどうか?質問します。” 必ずしも痛みを伴うとは考えられていない疾患の動物や、外来での患者では特に重要になります。動物看護師は痛痛管理戦略に関連してクライアント教育にも大いに活用されるべきである。”ゴットリーブ氏。彼らは自宅で痛みを伴うペットに対処するための具体的な方法を話し合たり、投薬の指示を見直したり、コントロール不能な痛みを示す可能性のある患者の状態の変化のモニタリングについて話し合うために獣医師よりも多くの時間を共有しています。手術または入院患者が退院する際の予定を決定することは急性疼痛のリスクがあるペットの家族が十分な準備を整えていることを確認するために役に立つ事があります。動物看護師は1~2日以内に患者の様子を確認し、自宅のペットを評価するために家族に質問するという任務を負うこともできます。

痛みの評価は自宅から始まります。疼痛管理のチームの最後のメンバーはペットの家族です。これらの人々は治療に対する反応を監視し、新たな痛みや痛みの悪化を示す可能性のあるペットの変化を検出するために最適な立場にあります。この重要な役割を遂行するために必要な教育とツールを家族に提供することは獣医師とそのチームの義務です。“チームメンバーが提供できるペットの家族のクライアント教育は多ければ多いほど良いのです。”ジョンソン氏。

家庭環境にいるペットの家族にとって急性の痛みはより容易に認識されるため、獣医師の診察を予約するように促される場合があります。慢性的な痛みはペットの体重に耐えられないような跛行、発声などのような急性の痛みと同じ兆候を示さないため認識する事がより困難である場合があります。多くの場合、ペットの家族は自分のペットが苦しんでいることに気づいていません。なぜなら、尻尾を振ったりまだ走り回っているからです。とジョンソン氏は語る。

ペットの家族は猫が窓辺の好きな場所で寝なくなった。猫の痛みを示す微妙な行動の変化を見逃してしまう事がよくあります。犬は階段の上り下りが遅くなる。残念ながら多くの場合はこうした行動の変化は老化に起因するものと考えられている。” 家族によるペットの痛み評価は非常に重要です。” ジョンソン氏。猫の痛みを監視するために”Feline Grimace Scale”のアプリの使用を推奨しています。猫の家族は顔の表情とそれが痛みを認識する鍵となるのを見て驚く事がよくあります。ジョンソン氏。ペットの家族が痛みを認識したら、獣医師は利用可能な疼痛管理のさまざまなオプションについて話し合う事ができます。ジョンソン氏は痛みの管理にはそれ以上の意味があることをペットの家族に認識させる事が重要だと指摘しています。麻薬を処方するだけではありません。最良の疼痛管理は薬物介入と非薬物介入の両方を統合して患者の快適さを最大限に高める事です。

コラボレーションの向上

ペットの転帰 疼痛管理チームが動物の快適さを支持する事が不可欠です。外来通院中も入院中も痛みはさまざまな形で存在し、術後、外傷患者、変形性関節症患者に限定されるものではないことを覚えておく事が重要です。例えば、膵炎、重度の歯科疾患、角膜潰瘍の患者、術前の患者も痛みを抱えています。チームメンバーは入院の理由に関係なくすべての患者の痛みの兆候に注意を払い痛みの評価を行うように訓練される必要があります。あらゆる診断検査や考えられる治療では常に痛みの存在を念頭においてください。ゴットリーブ氏。

静脈穿刺のような日常的な診断手順でも保定方法や扱い方によってペットにとっては苦痛となる可能性があります。受付、補助スタッフは動物看護師と獣医師に患者の痛みの兆候を警告し、痛みを最小限に抑える方法でペットが扱われるようにする必要があります。また、温湿布、パッド入りのベッド、アイシング、レーザーなど入院中に患者に使用できる非薬剤で実施可能な疼痛管理ツールが数多くあることを覚えておく事も重要です。

“すべての小動物の一般診療が痛みの管理を優先することで、ペットと家族はその恩恵を受ける事ができる。患者は術後の回復が早くなり、合併症が少なくなり、慢性的な痛みを持つ患者は長期的な転帰が改善される。”ジョンソン氏。

各チームメンバーの役割と責任

受付
・家族に痛みの評価ツールを提供し、予約前に完了するように依頼する。
・ペットの痛みや不安の兆候を認識する
・病院に入る時や待合室で家族がペットの痛みを感じている兆候を認識する
・電話中、訪問後のフォローアップ電話の際の報告
・担当獣医師や動物看護師に痛みがあれば通知する

 

診療補助スタッフ
・痛みや不安を最小限に抑える方法でペットに対応する
・家族から病歴を聴取する際に聞き取れる可能性のある痛みの兆候を認識しておく
・検査中に痛みや不安の兆候を認識する(入院中、処置室など)
・観察や懸念事項をチームメンバーに通知する

動物看護師
・入院中および手術中にペットの痛みや不安の兆候を常に監視する
(術部位の触診※最低1日2回)
・クライアント教育を行う

獣医師
・鎮痛剤の処方
・鎮痛剤以外の選択肢についてクライアントと話し合う
・急性疼痛、慢性疼痛の兆候についてクライアントを教育する

疼痛管理チーム
・チームに必要な疼痛の評価と管理に関連したトレーニングの時間を提供する
・ウエビナーやカンファレンスを通じてチームメンバーに疼痛と管理における継続教育を取得するように推奨する

伴侶動物たちの明るい明日を作り、患者の生活に痛みが存在しない未来を構築しましょう。痛みの一歩(または数歩)先をいきましょう。AAHA 疼痛管理ガイドライン 
優れたチームによる先制的および予防的治療に焦点を当てた効果的な複合アプローチ。
詳細はaaha.org/certificatesにアクセス。

AAHA 2022ガイドラインより
訳:Hitoshi IKEDA D.V.M

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