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前十字靭帯疾患

前十字靭帯疾患

犬の前十字靭帯断裂

犬の膝関節の内部には文字通り”十字”に走行している靭帯があります。この靭帯は後肢の運動機能に非常に重要な役割を担っています。犬は多くの動物の中でも特に前十字靭帯を傷めやすい動物であることはよく知られています。原因は遺伝的な要因が関与していると考えられていますが、肥満、加齢、ホルモンの影響なども靭帯の変性や断裂などを引き起こす原因と言われています。

ひとたび、前十字靭帯が損傷を受けると、犬が体重を荷重する際に膝関節の不安定性が生じるようになります。やがて犬は膝を曲げることを嫌い、足を外側に投げ出すような姿勢を取り始めます。(おすわりさせた状態で観察する)

この膝の不安定性が進行すれば、関節内部の半月板に損傷が起こったり、関節内に水が溜まったり、取り返しの付かない変性性関節症にまで至ります。

また、慢性経過をたどると、ふとももの筋肉が痩せていたり、膝の内側が膨らんでいたり、足を持ち上げると、”かかと”が”おしり”に届かなくなります。(関節可動域の制限)

前十字靭帯の病気が原因で膝関節に不安定性があれば、変性性関節症が起こる前に、早期に関節内部の異常を発見し、必要以上に前十字靭帯に負荷がかからないように、機能的に安定化させることが、その犬の予後と運動機能の回復に有効です。

 

内科療法

運動制限、NSAIDs、アマンダジン、ガバペンチンなどの投与、サプリメントの補充、体重コントロールなどが有効な場合もあります。

 

外科療法

古くからの関節外法としてLSSやFHT、比較的新しい方法として関節力学を変えるTPLO、CBLO、TTAなどが行われています。とくに、ポピュラーな手技としてTPLOがありますが、近年、多くの研究の成果から、CBLOという術式がヒトの整形外科領域の脛骨変形矯正の原理をもとに開発され、2010年頃より米国で臨床応用されはじめました。

 

前十字疾患(靱帯断裂)経過

前十字靭帯の部分断裂の時点で何らかの治療を施すことが出来れば、完全断裂への進行を抑制できると考えられています。

 

Sit TEST(おすわり試験)

病気が進むと犬は膝を曲げておすわりをすることを嫌がるようになります。
Sit Test(おすわり試験)と言います。

 

関節可動域(ROM)

慢性経過をたどると、関節可動域(ROM)に制限が生じます。犬を起立させた状態で簡単に調べることが出来ます。

関節可動域が減少するため、足根骨と坐骨を近づけると隙間ができる。
正常な膝では完全にくっ付ける事が可能。

慢性経過を示しています。

 

Medial Buttress

前十字靭帯に問題が起こり、慢性化してくると膝関節の内側部分が腫れて膨らみます。

 

詳しい整形外科的触診

・不安定性
・関節液の増量
・内側関節包の肥厚
・半月板クリック
・疼痛
・リンパ節
・骨
・可動域

ドローアーサインや脛骨圧迫テストなどを行い、膝関節に不安定性が生じていないかを確かめます。

 

関節鏡

MRIや関節鏡、超音波を使い詳しく観察することができるようになっています。

・滑膜炎
・部分断裂
・完全断裂
・半月板損傷の有無と処置

 

CBLO(CORA  Based Leveling Osteotomy)

CBLOは犬の前十字靭帯断裂の治療のために、米国テキサス州の獣医整形外科専門医達によって新しく紹介された手術方法です。このCBLOは人の整形外科医(矯正専門)のペイレー先生の脛骨変形矯正の理論を元に犬に応用、開発された方法です。TPLOと同様に脛骨の近位にドーム状の骨切り術を実施し、犬が体重を荷重した際に、脛骨の前方へのスラスト(移動、滑り)を打ち消すように矯正するというものです。TPLOに比較すると、このテクニックの特徴は、骨切りのブレードが関節内に入らない、脛骨粗面の骨折のリスクがない、脛骨近位のインプラント埋入面積が広く確保できる(当院での比較約34%広く確保可能)というメリットがあります。また、CORA(変形中心)に基いて骨きりが行われるため、矯正された脛骨の体重荷重軸と解剖学的な軸が一直線上に配列されるため、TPLOで生じる関節内のバルコニー効果というものが生じないという利点が有ります。(※長期的な予後比較は米国で盛んに研究されている分野です。)

当院ではTPLOで対応しにくい小型犬や十分な運動機能の回復を期待するジャック・ラッセルテリアなどの小型のアジリティー犬においては現在、CBLOで対応しております。また、小型種については前十字靭帯断裂に膝蓋骨内方脱臼の併発例が頻発するため、脛骨粗面の移動(T.T.T.)にも対応する必要が生じてきます。CBLOでは脛骨近位領域が多く確保されているので、脛骨粗面移動も同時に対応可能です。

CBLOに期待される、術後の後肢の運動機能の回復もTPLOと同様に大変良好です。開発者のDon Hulse先生等の報告では過去約500例での症例報告、2012年ヨーロッパ獣医整形外科学会ではパイラス先生等が11例の小型犬にCBLOを実施し、その予後を評価、報告しています。※CBLOかTPLOの選択については、脛骨の形状、膝蓋骨内方脱臼の併発の有無、使用するインプラント、体重などで決定されます。CBLOは2021年までの当院での対応は145例となっています。

 

 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=1phpAphDaig

 

TPLO

TPLO…脛骨高平部水平化骨切り術

現在、米国において犬の前十字靭帯断裂を治療するために採用される一般的な手術方法です。(※当院では2007年より採用し、小型犬〜超大型犬まで対応しています。※一部CBLO)これは脛骨(すね)の高平部の角度を矯正することで、犬が後肢に体重を負重する際に、脛骨が前方に移動しないように、その動きを制御するという膝関節力学の理論にもとづいています。手術方法は脛骨の近位に円形の骨切り術を実施し、脛骨高平部を尾側かつ、遠位に回転させ、専用のプレートを用いて安定化させます。

 

術後管理

術後12週間は運動を制限します。ご家庭では関節可動域の改善運動(ROM)を25〜50回、1日あたり2〜3回実施、必要であれば、鎮痛剤の投与、マッサージを行います。入院中あるいは通院時には、超音波治療、レーザー照射、神経筋刺激なども実施します。また、近年では専門的にリハビリテーションを取り入れた施設であれば、早期の機能回復のために、積極的に水中トレッドミル、バランスエクササイズなども行われます。

一般的に6〜8週かけて後肢の機能は徐々に改善傾向に向かいますが、本格的な機能回復を得るためには通常、4〜6ヵ月必要と予想されます。

 

 合併症

TPLOの術後の合併症は非常に少ないのですが、感染症、膝蓋靱帯炎、脛骨粗面の骨折、プレートの破綻、スクリューのルーズニング、骨切部位の癒合遅延、後十字靭帯の断裂、半月板の損傷、不適切な手技などがあげられます。

 

前十字靭帯部分断裂:ロッキングプレート TPLO プローピング

 

内側半月板尾部、バケットハンドル断裂を部分的摘出、および関節内遊離骨片を同時に摘出

 

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