ダクタリ会

症例

猫の脳腫瘤摘出

12歳の猫さんが徐々に目が見えなくなり、1週間前よりてんかん発作を起こすようになってきた。猫さんの主治医より連絡があり、MRIで画像診断と必要な治療をして欲しいとのことで来院されました。脳神経学的検査では眼瞼反射と威嚇反射瞬き反射の消失、徘徊行動、遊泳運動などが確認されました。ここ数日は食事も水も取れていない状態であったので、軽い脱水症状を起こしていました。無麻酔で全身のCTで評価を行うと左側の側頭葉に占拠性病変(腫瘤の存在)が確認されました。その後、十分に静脈内へ輸液を行ったのち、全身麻酔下でMRI撮像が行われました。MRIでは左側の側頭葉に、T2等〜高信号、T1等信号、境界明瞭に造影増強される11mm大の占拠性病変が確認されました。この周囲の大脳白質がT2高信号化するとともに、著しい右側へのミッドラインシフトが認められました。またこの病変の影響で脳脊髄流出路が閉塞されており、脳室拡張と脳圧亢進の原因となっていました。この問題に対して、食欲が廃絶していることから、経鼻カテーテルを設置後、自宅でプレドニゾロン、イソバイドの内服とクリティカルリキッド(栄養補給)を経鼻カテーテル経由で1週間行ないました。一般状態は徐々に改善し、遊泳運動、徘徊行動は消失し、視力の回復が確認されました。この時点で、再度MRI撮像を行いました。脳浮腫はかなり改善していましたが、依然として腫瘤(占拠性病変の存在)が確認されました。そのため、左側の側頭骨アプローチにより開頭術を行い、顕微鏡下で脳実質を切開、腫瘤にアプローチしました。腫瘤は境界明瞭であり、生検と同時に吸引装置により可能な限り腫瘤の切除と外科的な徐圧を行いました。切除後はゴアテックス人工硬膜で大脳を被覆し、頭蓋骨はチタンメッシュによるクラニオプラスティーを行いました。その後、側頭筋筋膜、皮膚縫合を行いました。術後は覚醒遅延がありましたが、術後15時間程度で意識レベルの改善、姿勢の保持が出来る様になりました。術後36時間で威嚇瞬き反射が確認され、ちゅーるの匂いを嗅いで舐めるようになるほど回復しました。当面は、発作や急激な脳圧の上昇などに十分気をつけながら、猫さんのQOL向上を目指して24時間体制でクリティカルケアを継続します。今後は腫瘤の病理組織学的評価の結果に沿った治療方針を検討します。小さい体でよく頑張ってくれました。

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